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ないものねだりのろくでなし

2005-11-07



いちばん好きな場面


◆日記

爪を赤く塗り何もかもに別れを告げるなぜなら私は生きていかねばならないからだ。

モーヴァンがスーツケースにCDとレコードだけを詰め込んだのと、ラナに夢を見るのはやめなよと言われたのとが、綺麗にシンクロした。音楽はずっと残るということと、とっくに夢から見捨てられたモーヴァンが夢を見るのはやめなよなんて浅い言葉を言われたこととは、背中合わせだ。つまりどちらも、彼女は生きているということだからだ。自殺した彼氏が自分のために作ったコンピを聴きながら風呂場で死体を切って泣く彼女も、部屋でヘッドフォンをして煙草を吸いながらCANを聴く彼女も、彼氏の遺作を自分のものにした彼女も、美しい自然を愛でるような目で見つめる彼女も、裏切った親友を赦す彼女も、ずっと赤い爪の彼女も。生きているからできることを精一杯している。なにせ彼女は生きていて、だから美しい。カセットの切り替え音が今まで見ていた景色を変える。赤い爪は生きる人間の血の色だ。

それで私はすっかりモーヴァンのこと大好きになってしまった。大体の人はラナ視点だろうしモーヴァンの感受性や思考回路を理解できないだろうが、それで私はいっこうに構わない。ラナがいるからモーヴァンの良さがわかるのだから。人生の大部分においては、それが妥当なのだ。