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ないものねだりのろくでなし

オセロ



オセロ / ク・ナウカ / 東京国立博物館日本庭園 特設能舞台

オセロは有名なシェイクスピアの悲劇である。至極簡単に言うと、貴族オセロが部下のイアーゴに騙されて妻のデスデモーナを殺し、自殺するという話。ちなみにオセロは黒人であり、人種・年齢の差なども裏の背景にある。オペラとしても有名だが、ク・ナウカは能にしてみせた。私は能を観るのも野外で観るのも初めてだったので、興奮気味に見ていたらあっという間に終わってしまった。

まずク・ナウカは演者を二つにわける。それはつまり、身体と声に分ける。身体を動かす人と言葉を話す人とは分けられている。しかしそのことはむしろ舞台上での一体化を見せた。”誰が誰である”という明確な境界線がないので、舞台上にはなにやら大きな感情がただひとつ見えるのだ。

野外という空間は、自然が囲んでいるために常に揺れ動いている。水面の揺れ方、風の吹き方、葉っぱの擦れる音、すべてが動く。それが舞台に寄り添うように在る。デスデモーナの魂が天に昇るとき、つまりデスデモーナ役の女性の手の動きが円を描きつつあがっていったとき、強い風が吹いた。彼女の髪の毛と服が揺れ、私の座っていた椅子も浮き、屋根も浮いた。そして水面に映る光が動き、生音と重なった。

それはたまたまの出来事だっただろう。だが私はあの体験を忘れることは絶対にできない。舞台の要素には偶然という科学がついている。