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ないものねだりのろくでなし

Over the Rainbow



Over the Rainbow / アン・ジヌ

最初はほんとにイ・ジョンジェが川ちゃんにしか見えなくてどうしようかと思っていたんだけれど、どんどん彼の繊細な表情の動きに引き込まれていって、見終わった後は、なんて素敵でかわいらしい映画なのだろう!と久々に思った。

韓国のアン・ジヌの初監督作品だとか。マーとにかく映像が美しい。それに、時計のアラームのタイミング、花火のタイミング、暗室の電気のアングル、雨の中のミュージカル風ダンス、最後の虹・・・この監督のセンスは素晴らしい。ダサさとかわいらしさのちょうどいいところを行ってる気がする。大体お天気、それも雨をモチーフに使っている時点で相当センスはいいと思いますが。。

フランス映画みたいに長くは語らず、単純すぎやしないかと思うほどサッパリとした風通しのいい会話をする。それに冷静に考えたらそんなの絶対ありえんだろ、という設定の多さ。設定の疑問や矛盾なんか映像と演技の美しさに比べたらとるに足らず、気にならない。そういうものが常に名作であるしずっと後まで愛される。あとこの映画がR15指定になっている国なんだからこそ出来た素晴らしい映画であるとも思う。

好きな人を誰にも言わずひそかに「虹」と呼んでいたり、番組で「虹も期待できます」が言えなかったり、美人の「愛は雨とともに訪れます」なんていう台詞や、最後のオチでもキスひとつしないところ!あんたそりゃ、どんだけ繊細なんだよって話だ。

主人公は部分記憶喪失なわけだから、過去の時間が交錯して徐々にリンクしてひとつになっていく。その過程が本当にとても丁寧。不器用な男のポッカリと空いている時空間を、鮮明に生命力ある映像に変えていく。何気なく髪型が変わっていたり、子どもっぽいいたずらで嘘をついたりつかれてしまったりする。そういう些細な時空間のゆがみは記憶喪失じゃなくたって私の周りでも当たり前に頻繁に起こっている。自分が本当だと思っていたことと他人が本当だと言ったこととの微妙なズレだとか、そういうもの、”映画としての映画”として最高な描かれ方をしている。

純粋でわかりやすくて素直なエターナル・サンシャインといったところか。この監督の次回作に大いに期待。